日本防衛ジャーナリスト、桜林美佐さんがロバート博士について紹介、記事にしてくださいました。
日米を結ぶ、かすがい トモダチ作戦は「神様に与えられた使命」
2016.12.15
ロバート・D・エルドリッヂ氏
2015年2月、沖縄で起きた小競り合いが原因で、1人の人物が海兵隊を去ることになった。エスカレートする基地反対運動の様子が分かる映像をメディアに提供したという理由から解雇されたのだ。
「やめさせないで!」
全国から処分取り消しを求める署名が約4万件も寄せられたが、撤回はされなかった。しかし、このことで日米の懸け橋となり、長年尽くしてきたロバート・D・エルドリッヂ氏の米海兵隊政務外交部次長としての功績を改めて思い知らされることにもなった。
1968年、5人兄弟の末っ子として米ニュージャージー州で生まれ育った。父は徴兵で第2次世界大戦に参加、子供のころに沖縄戦の話を聞いたことがあったが、その沖縄と将来深く関わることになるとは夢にも思わなかった。高校卒業時に父が他界し、残された母のために大学を諦めようとしたが逆に背中を押され学問の道へ。兄弟で唯一の大学進学だった。
90年、初めての来日は語学教師を派遣するJETプログラムだった。フランス留学の経験があり、再び海外に住みたいという思いもあった。米国では留学と言えば、欧州に行くのが当然と考えられていた時代、日本はまだまだ劣った国という見方が大勢を占めていたが、「それでは真の国際人になれないのでは?」という思いがきっかけだった。
初めての日本は、兵庫県の小さな町だった。2年間で500人近い中学生全員とその家族まで名前を覚えた。それでも「十分なコミュニケーションがとれない」と、帰国はせずに大阪の日本語学校で本格的に日本語を学ぶことにした。1日16時間の猛勉強。英会話講師をしながら学費を稼ぎ寝食も忘れて打ち込んだ日々、妻の永未子さんとの出会いもこのころだった。
当初は長居するつもりではなかった日本だったが、数々の出会い触れ合いを経験し、いつの間にか「この国を研究することが天命だ」と感じるようになっていた。
米国の大学院も合格していたが神戸大学の大学院に進学した。日米関係史の研究を進めるようになる。
阪神淡路大震災が発生したのはそんな時だった。自身は難を逃れたものの、仲間を失うことに。自転車で大阪と神戸を毎日往復し、連絡のつかない同級生を捜索し、数カ月に及ぶボランティア活動を経験した。
「米軍にも頼めていれば…」
災害大国・日本における日米協力の重要性に気付かされる契機になった。だが、その後まとめた提言に聞く耳を持つ人は当時、誰もいなかった。
日米歴史研究の知見を買われ、沖縄の海兵隊司令部に政治顧問として迎え入れられたのは2009年だった。日本の大学と海兵隊は180度違う環境だったが、知的柔軟性を持ち、人種の宝庫である海兵隊に魅せられて、あえて飛び込んだ。妻と2人の子供たちを引き連れて思い出の詰まった関西を去る日、近所の人たちが大勢見送りに来てくれた。
「涙が出ました。ここでの経験で私は『これからどんな有事が起きても日本で生きよう』と心に誓いました」
災害時における日米の相互支援協力の提言を再び官邸に届けたのは11年3月10日だった。くしくも翌日、東日本大震災が起きる。もちろん態勢は構築されていないが、すぐに部隊を少しでも東北に近付けて待機させる前方展開を開始。日本政府の要請とともに動けるようにした。それが「トモダチ作戦」の始まりだった。
「これは神様に与えられた使命なのだと思いました」
仙台駐屯地の寒い講堂で、体を丸めて寝起きする同氏を奮い立たせたのはドロドロになって行方不明者の捜索をする自衛官の姿だった。
「自分の故郷や家族が被害を受けているのに…」「力になりたい」
その思いは海兵隊が全力で応えてくれた。感動の連続だった。
トモダチ作戦の功績は今や周知されるところとなった。だが、その立役者が基地反対派の狼藉(ろうぜき)を世に発信して更迭されたことを、どれほどの国民が知っているだろうか。
「子供が1人で来ても、偉い人と同じように案内しました」
基地には色々な人が見学に来るが、「来賓」の名札を付けた「偉い人」ほど勉強不足が多いという。国会議員も近所の子供も差別せず、丁寧に説明した。同氏のそんな権力に媚びないところが、愛する海兵隊を去らざるを得なくなった一因かもしれない。
立場は変われども、これからも日本と米国、そして沖縄を結ぶ鎹(かすがい)であり続けることは間違いないだろう。 (ペン・桜林美佐 カメラ・桐山弘太)
■ロバート・D・エルドリッヂ 1968年1月23日、米ニュージャージー州生まれ。90年、米バージニア州リンチバーグ大学国際関係学部卒業後、来日。99年、神戸大学大学院法学研究科博士課程修了。博士号取得。2001~09年、大阪大学大学院准教授。09年9月から15年4月末まで在沖縄米海兵隊政務外交部次長。エルドリッヂ研究所代表・政治学博士。著書に『次の大震災に備えるために』(近代消防社)、『オキナワ論-在沖縄海兵隊元幹部の告白』(新潮新書)、『尖閣問題の起源』(名古屋大学出版会)など多数。